久しぶりの井泉だったが…

ほぼ一年ぶりくらいか、久しぶりに上野の井泉へ。11時半過ぎに店の前につくと、既に数名の待ち列。相変わらずの人気。20分近く待って、ようやくカウンターに案内された。

座った瞬間、目の前の調理台に並べてある皿のキャベツを見て、なんとなく違和感を感じた。なんか違う。そういう眼で見回すと、かつてとは違うかも、という点に目が行く。この店に来始めて30年以上の記憶と、目の前の光景の微妙な違いだ。
勘違いしないでほしいのは、かつてとは微妙に異なってはいるが、世間一般のスタンダードと比較したら、紛れもなく美味いカツを供している。ロース定食1350円はお値打ちだ。それでも、昔の料理人のピリッとした雰囲気と仕事ぶりと比べると、ちょっと寂しく感じる。

キャベツの千切りが、かつてより太く、盛りが少ない。まあ、盛りの少なさは野菜の高騰ゆえのことかもしれないが、太さは気になる。かつてはキャベツの山に迂闊にソースをたっぷりかけると、細切りであるために下の方までトリクルダウンしないので、何度かに分けて食べてはかける、というやり方が必要だった。

もう一つは、揚がったカツを切る小さなまな板の減り方。かつては、さくっと同じ場所で切り続けるため、まな板の決まった位置がすり減って凹んでいた。もしかすると取り替えたばかりなのかもしれないが、その減り方が見られない。
また、5等分の仕方が微妙に違う。まず2:3に包丁を入れ、それぞれ2等分、3等分するのだが、見ているとちょっとブレがある。それはいいとしても、かつては切り終えた後、必ず一切れを横に倒し、火の通り具合を確認していたが、それをやっていない。もちろん、職人のする仕事だから、火が通ってないなんてことはあり得ないのだが、それでも必ず確認していた様子がとても印象に残っている。
ここまでは、料理が供されるまでの観察。とんかつが運ばれてきて、一切れ噛んだとき、以前に比べて肉が薄くなっていた。いくつか昔との違いを感じてしまい、バイアスがかかったか?
次に豚汁。これについても100%の確証はないのだが、かつては人参も含めて細か目に切ってあった気がする。今日のは銀杏切り、しかも豚肉などの素材に比べて妙にでかい。バランス悪い。
調理場を見渡すと、みな若く、世代構成がアンバランス。今揚げ方を担当しているあんちゃんは、きっと私が来始めた頃は店にも入ってない世代。その他の料理人も、みなまだキャベツも触らせてもらえない段階だったんでは。
昔は厳しい目つきで全体を見渡していた蔵前の揚げ方がいて、キビキビと指示を出したり指導したりしてたけど、そういう良い意味の上下関係がなくなってしまったんだろうか。年の頃もどっこいだから、揚げ方の睨みがきいてない印象。
見たところのヒエラルキーとしては、揚げ方の次はカツを切り、豚汁の面倒を見ている煮方、そしてキャベツを更に盛り、時折カツサンドの調理をする担当という感じ。
キャベツ担当はリラックスして世間話などしているので、ちょっと気遣いを試すテストをしてみたけど、やはり見事に落第。キャベツを平らげ、ご飯のお代わりをお願いしてみた。気遣いがあれば、キャベツがないことに気づいて薦めてくる(実際、昔はそういう人が多かった)。でも彼は飯だけ持ってきて、渡して終わり。
もう一人のキャベツ担当の太った兄ちゃんも、時折調理台のをダスターで拭くが、その吹き方が雑。どうせ拭くならきちんとやればいいのに、まだ小さいキャベツの切れっ端とか、衣の破片が落ちてるのに知らん顔。あかん。
かつてはカウンターに座って料理を待つ間、キビキビ無駄のないしっかりした仕事ぶりを観察するのが楽しみで、とても勉強になったんだけど、今では反面教師になってしまったかと、ちょっと寂しい気分。
ま、それでも美味いことには変わりないから、また来ちゃうでしょうけど、うかうかしてるといくら老舗と言っても、新興の店に凌駕されちゃいますよ。しっかりがんばって。
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