(今さらながら)Chromebookを試してみる

背景

これまでもっともスタイリッシュでスッキリとしたパソコンとしてApple製品を愛用してきたが、Steve Jobs亡き後、品質管理面で不安を抱かざるをえない事象が続き、この調子でAppleのクオリティーコントロールが低下していったら、どのPCを使えばいいのだろう、と考えていたとき、Office 365」が「Chromebook」で使えるのに、まだWindowsが必要?という記事を目にして、Appleがさらに劣化してしまったら乗り換えるPCとして可能性を感じ、今更ではあるがChromebookに興味が湧いた。

Chromebookとは

Chromebookとは、Googleが開発提供するChromeOSで動作し、アプリケーションはChromeブラウザのみでほとんどのことをまかない、データはクラウドに置くという潔い設計のPC。システムも軽量でアプリケーションもChromeのみで済むため、ハードウェアのスペックもそれほど高くなくても軽快に動作する。そのため従来のラップトップPCに比べて価格も低く抑えられる。米国の教育市場などではかなり浸透しつつあるが、日本では相変わらずWindowsPCに押されて、今ひとつ普及していない。

購入まで

早速、日本で販売されているChromebookの実機を量販店など触ってみた。携帯性やキーボードの打鍵感、画面の広さなどを勘案して比較してみたところ、ASUSのC101というモデルに狙いが定まった。ところが、ひとつ問題なのがキーボード。USキーボードひと筋で慣れ親しんできた身としては、JIS配列のキーボードはできれば避けたい。量販店の店員に聞いてみると、国内で販売されているものはすべてJIS配列で、USキーボードは購入不可能だときっぱりした回答。

そこで美国密林で調べてみると、送料含めてもUS$368(換算レートで36733円)で、むしろ日本で買う(48360円)より安い価格で購入可能だと判明、早速注文した。12月22日に発注して、29日には到着という驚くべき速さ。

使用感

早速開封していじってみる。最近アップルが採用している薄型のキーボードは、パタパタパチパチと打鍵音がうるさい割に押し込んだ感がないが、C101のキーボードはかつてのMacBookAirのようにある程度押し込んだ感じがあり、ほとんどキー音もせず打ちやすい。これならまとまった文章を書くのもまったく苦にならない。

システムのインタフェースもそれほど違和感がなく操作できる。ほとんどすべてのことがChromeブラウザで処理されるという特徴も、近年のHTML5の進化ぶりが背景にあるので違和感がない。

ほとんどの作業をブラウザ上で行い、データもGoogle Driveというクラウドに置くため、ネットワークへの接続がなければどうしようもない。しかし、自宅や職場なら無線環境が整っているし、出先ではiPhoneでテザリングして接続することができるので、特に問題はない。日本でも格安SIMと呼ばれるMVNOが普及してきたので、SIMを指せるスロットがあればもっと使いやすくなるのではないか。

iPhoneとのテザリング付記

MacBookに比べて、Chromebookの場合は接続までにやけに時間がかかったり、iPhoneの無線を捉えられないことが多くて調べてみると、あるコツがあることがわかった。

iPhoneの側の設定でインターネット共有のパネルを出し、Chromebook側が電波をつかむまでパネルを開いたままにしておく。理由は分からないが、これだとウソのように安定して電波を捉えられる。

独特の流儀

さて、使い始めてみると、Chromebookの「流儀」というかインタフェースの特徴がいくつかあった。ひとつには、ローカルストレージと、システムがデフォルトとしているデータ保存領域のGoogle Driveとの関係がやや捉えにくい。また、従来のアプリケーションのインストールに相当する考え方についても、ちょっと癖がある。

Chromeブラウザに機能を追加するというChromeOSの基本形に加えて、ChromeOS上でAndroidをエミュレートし、そこでAndroidアプリを動作させる形も併存する。後者の場合、すべてのAndroidアプリがきちんと動作する保証はない。ローカルストレージをユーザが直接操作することはあまり想定していないらしい。別の記事で書く予定だが、Androidアプリでローカルに保存したデータを操作しようとするとき、ちょっと面倒なことになる。

背景でも触れた、Chromebookへの関心のきっかけとなったMicrosoft Officeも、これがわかっていないと戸惑う。従来もChromeへの拡張機能としてブラウザ上で動作するWordやExcelなどのOfficeスイートは存在した。しかし、Google Driveを前提としているのでネットに接続していないと使いにくく、動作速度や機能面でアプリケーションに比べるとやや見劣りする。

今回新たに使えるようになって話題となったのは、Androidで提供されているアプリケーションのOffice。こちらの方がオフラインでの作業もしやすく、機能面でもWindows版やMac版と比較して、ひどく劣っているということもない。ただ、データの扱いという点では、アプリからのローカルストレージへのアクセス権限に制約があるため、やや使い勝手が悪い。

この2つの異なるOfficeは別物で、ブラウザ機能拡張版はウェブストアから、Android版はPlayストアからそれぞれダウンロードしなければならない。

愛用しているEvernoteもChromeの拡張機能版とAndroidアプリ版が存在し、それぞれ動作が異なる。Chrome拡張機能版のEvernoteは機能的にはやや劣るものの、ローカルストレージに実データは持たないため、メモリ領域が逼迫していても安心して使える。ただし、ノートやノートブックにアクセスがあるたびにネットワークからデータをダウンロードしてくるので、若干動作がもたもたする。したがって、ネットワークに接続していないときには使えない。一方、Androidアプリ版は、すべてではないようだがかなりのデータをローカルストレージに蓄えているので、オフラインでもある程度使える。

強まるGoogle依存

まあ、そもそもGoogleが提供しているOSを使っている以上仕方ないことだが、いろいろな面でますますGoogle依存が進行していくのがやや心配なところ。

まず、何はさておき、Googleにアカウントがなければ始まらない。アカウントにログインせず、ゲストモードで使うことも可能だが、それでは本当にただのブラウザ端末に過ぎなくなってしまう。逆に言えば、Googleアカウントにログインしさえすれば、いろいろな設定やデータも何の苦労もなく新しいChromebookに移行できるという強みでもある。

その他、Google依存進行例を挙げると、ChromeOSからDropboxを呼び出してデータのやり取りができるようにする機能拡張が提供されているので、従来通りDropboxも使えるが、やはり操作性やOSとの親和性という点ではGoogleDriveに軍配が上がるため、GoogleDriveの利用率も上がる。ブラウザについても、FireFoxが使えるようになったらしいというニュースは見たが、実質的にはブラウザはGoogleChrome以外の選択肢はないので、他のマシンでもChromeブラウザを使うほうが、ブックマークの動機や拡張機能の連動などで便利なので、メインのブラウザもGoogleに絡み取られることになる。私はEvernoteをヘビーに使っているので移行は考えず、ブラウザ拡張機能版のEvernoteアプリを使っているが、そうでもなければちょっとしたメモやクリッピングはGoogleKeepを使うのが便利である。

Macからの移行

今やMacでも扱うデータの多くはクラウドにあり、ブラウザで様々な業務をこなすのが普通になっているので、移行と言ってもそれほど違和感もなく、データなどの移し替えで苦労はない。それでも、いくつか慣れと工夫が必要な点はある。

まず、Macのコマンドキーに相当する位置にALTと印字されたキーがあり、その隣にCTRLキーがある。実はこのコントロールキーが、Macのコマンドキーに相当する働きをする。Macユーザにとっては、ALTキーがCTRLキーとして動作してくれる方が使い勝手が良いので、これを設定によって変更すると使いやすくなる。

設定を開くには、Windowsのタスクバー、MacではDockに相当する「シェルフ」と呼ばれるロンチャーで、時刻やネットワークステータスなど各種情報が表示されている部分をクリックする。このシェルフは、ALTクリックによって、表示位置を左右下のいずれかにしたり、自動的に隠すような設定にすることができる。設定のキーボードを開くと、各種キーの動作を指定することが可能になっているので、ALTをCTRLを入れ替える。

インストールしたアプリも含めて、ほぼすべてのアプリケーションのウィンドウは、Chromeブラウザのタブとして表示される(これは設定によって独立したウィンドウとして開くことも可能)。アプリごとのメニューバーというものはないことがほとんどで、アプリによってはウィンドウの上部左右のどちらかにメニューが開くボタンがあり、そこから設定などにアクセスできることがある。アプリの設定を一元的に管理できるパネルは用意されていない。

かな漢字変換は、Google日本語入力が搭載されている。変換精度はまあまあだが、変換で使うキーの割当が異なるので困る。MacでATOKやことえりに慣れ親しんでいる場合は、設定の言語と入力で入力方法を設定できる。

インストールしたアプリや拡張機能

  • OfficeAndroidアプリ)
  • File System for Dropbox(拡張機能版):ChromeOSからDropboxにアクセス
  • Evernote(拡張機能版)
  • Evernote Web Clipper(拡張機能版)
  • EBPocket(Androidアプリ):EPWING辞書の検索ソフト
  • Amazon Kindle(Androidアプリ)
  • WordPress(Androidアプリ):WordPressの更新ツール
  • LINE(拡張機能版)
  • KeePass(拡張機能版):パスワード管理
  • Kami(拡張機能版):PDFの閲覧や編集
  • データセーバー(拡張機能版):ウェブデータの最適化で通信量軽減
  • AdBlocker Pro(拡張機能版):広告の抑制
  • Sticky Notes(拡張機能版)
  • Blow Torch(Androidアプリ):MUD/MOOにアクセスするクライアントソフト
  • ファイルマネージャー+(Androidアプリ):標準装備のファイルアプリよりもシステム全体のストレージが管理できる

小道具など

ASUS Chromebook Flip C101PAのキーボードには、バックライトがついていない。ある程度の暗がりでもタッチタイプできるが、やはり手元が確認できる方が便利なので、コンパクトなUSBライトを購入した。夜の車内や、暗い講演会場などで効果を発揮するかもしれない。

Flipというだけあって、このChromebookはモニタ部分を360度折り返してタブレットモードで使うことができる。センサーがついていて、flipしているときには、背面にくるキーボードは無効になる。タブレットモードで使用するときに便利かもしれないと、タッチペンを買ってみた。

ちょっと使った感じでは、あまり感度は高くなく、指の方が使いやすい気もする。感度の悪さは、画面に張った保護フィルムのせいかもしれない。しばらくしたら、ガラスのものに変えてみるか。

71MoTIAdETL._SL1200_C101には、microSDカードスロットが搭載されている。作業データはクラウドにおいてもいいとして、映像など馬鹿でかいデータを扱いたいときに便利なのと、辞書検索ソフトで検索する数GBある辞書データを置いておくのに使えると思い、データ置き場としてmicroSDカードも買い求めた。

ところが、システムからSDへのアクセス権限が限定的で、結果としては目論み通りに辞書データを扱うことは叶わなかった(これについては別記事で)。いずれChromeOSでのSDの扱いも変更されるかもしれないので、それを期待する。

61Oi4bpoKhL._SL1250_せっかく900グラムという軽量さを活かすには、あまりごついケースは使いたくない。最初はネオプレンの薄型スリーブを考えたが、ちょっとチープすぎる。それで目にとまったのが、【2013年モデル】ELECOM レザーケース タブレットPC 10.1インチ対応。ちょっと古い製品だが、レザー製で、蓋のまちが大きく、ゴムバンドで留めるタイプなので、Chromebookに限らずいろいろな大きさのデバイスを入れられる。思い切って、レッドにしてみた。

予想以上に分厚い革で重みもあるので、インナーバッグと言うより、そのまま持ち歩くのに適しているかも。

できないこと

CPUパワーは高くないので、負荷のかかるようなマルチメディアデータの編集作業は、安定して使えそうなアプリがない。授業の教材作成で、MP3の編集や、動画の切り貼りなどをすることが多いのだが、Chromebookでは処理できそうにない。同様に、画像の編集ソフトも使いやすく高機能なものはあまりない。

通常はフォントのインストールができず、標準で搭載されているフォントもごく限られたものなので、印刷する文書を本格的にデザインして編集する作業はできない。

システムにドライバなどを追加することはできないので、ネットワークに接続されているプリンターでも、Chromebookから直接印刷することはできない。GooglePrintを経由したり、コンビニのネットプリントサービスを利用すれば印刷は可能になるらしいが、試したことはない。

その他

使ってみていろいろ学んだり発見したことを、自分の備忘も兼ねて列挙しておく。

  • ヘルプキーコンビネーションのヘルプは、ALT + CTRL + スラッシュキーで表示される。ページ送りやタブやウィンドウの切り替えは覚えておくと作業効率がぐんとアップする。
  • ファイル一覧できる操作はごく限られてはいるが、MacのFinderに相当するファイルというアプリのウィンドウは、ALT + SHIFT + mで呼び出せる。
  • スクリーンショットCTRL + F5(ウィンドウ一覧)でウィンドウ全体のスクリーンショットが、CTRL + SHIFT + F5で指定範囲のスクリーンショットが撮影可能。これはDownloadsフォルダに保存される。

まとめ

価格が安いPCと考えてしまうと、何かと削られた機能に目が行ってしまい、あれができないこれもできないとなりがちだが、これだけ軽量で長時間利用可能で安定したツールが、4万円以下で手に入るのは魅力的。ChromeOSで提供されている機能は、PCで日常的に使う機能をほぼ網羅しており(というか、それだけGoogleに絡め取られていると言うことだろうが)、その意味では出先でのモバイル環境としては申し分ない。

これでAppleが凋落するのも狼狽せずに見守れるかもしれない。

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