教員免許更新制が始まった当初は、現職教員が更新をうっかり忘れたり、受講したのに手続きを忘れて免許が失効してしまったり、免許が失効したのに気づかず教えていてある日突然職を失ってしまうなど、あまりにも可哀想な事例が少なからずあった。
不思議とあまり騒がれないが、免許を所持している大学教員が免許を有効のまま維持しようとすると、意外な落とし穴が待っている。
以下、自分への覚え書きとしても、情報をまとめておく。
引用は、特に断りがあるものを除いて、すべて文科省HPの「免許更新制度」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/koushin/)から引用している。
更新講習の受講資格
まずは、受講資格について確認する。文科省のページでは、次のように説明されている:
4.1 受講対象者(※新免許状・旧免許状共通)更新講習の受講対象者(講習を受講できる者)は、普通免許状又は特別免許状を有する者で、以下に該当する者です。(1) 現職教員(校長、副校長、教頭を含む。ただし、指導改善研修中の者を除く)(2) 実習助手、寄宿舎指導員、学校栄養職員、養護職員(3) 教育長、指導主事、社会教育主事、その他教育委員会において学校教育又は社会教育に関する指導等を行う者(4) (3)に準ずる者として免許管理者が定める者(5) 文部科学大臣が指定した専修学校の高等課程の教員(6) 上記に掲げる者のほか、文部科学大臣が別に定める者また、今後教員になる可能性が高い者として、(7) 教員採用内定者(8) 教育委員会や学校法人などが作成した臨時任用(または非常勤)教員リストに登載されている者(9) 過去に教員として勤務した経験のある者(10) 認定こども園で勤務する保育士(11) 認可保育所で勤務する保育士(12) 幼稚園を設置する者が設置する認可外保育施設で勤務している保育士も更新講習を受講することができます。
加えて、旧免許状所持者の受講対象者のうち、上の(1)、(3)、(4)、(6)については受講義務者として扱われ、更新講習の受講義務があるとされている。
参考までに、なぜ旧免許状所持者が別扱いとなるかというと、免許更新制度が導入された平成21年3月31日以前の免許では、有効期限が定められていないため、生年月日で期間を区切り、順番に終了確認期間を設けることで対応しているからである。
話を戻すと、教員免許を持っている大学教員は、そもそも受講資格がなく、受講義務者にもならないということである。
更新講習受講免除対象者
一方、「免許状更新講習を受講せずに免許管理者に申請を行うことによって免許状を更新できる者」が、「免除対象者」となり、以下の2つの場合が挙げられている:
(1)教員を指導する立場にある者
(2)優秀教員表彰者
(1)には、校長(園長)、副校長(副園長)、教頭、主幹教諭または指導教諭、教育長、指導主事、社会教育主事、その他教育委員会において学校教育又は社会教育に関する指導等を行う者に加えて、「免許状更新講習の講師」が挙げられている。
また、講師として免除を受けるには、「有効期間満了日(修了確認期限)の2ヶ月前までの2年間に講師を務めた経験が必要」と定められている。
いずれの場合でも、免除対象ではあっても、免許管理者に免許状の更新手続に関する申請を行わなければならず、それを怠ると免許は失効するということが、わざわざ枠内の注意書きに明記されている。
よくわからないのは、その中に「上記に掲げる者でも、知識技能が不十分である場合は免除対象とはなりません。」と付け加えられていること。一体どういうケースが想定されていて、誰が判定するのか、不明である。実際にこの条件で免除されなかった事例があるのかもわからない。
更新講習の講師を務めた大学教員
私のかつての理解では、自分の免許更新の時期が来た年度に更新講習で講師を務めたら、職場に証明書類を発行してもらい、私の場合は千葉県教育委員会に申請すればよいと考えていた。
しかし、千葉県教委に連絡をしたところ、さにあらず、講師を務めても免許の更新はできないことが判明した。その根拠となるのは、先ほどの枠囲いの注意書きの下にある、米印で始まる1行のただし書き。
※ 旧免許状所持者の場合、免除の対象となるのは、更新講習の受講義務がある者のみとなります。
つまり、教員免許を持っていても、大学教員という立場では受講義務が生じないため、講師を務めても更新講習免除の対象とはならないということである。
更新講習の講師を務めて免除対象となるのはどういう立場の人物を想定しているのかと言えば、主に教員養成大学附属の初等中等教育学校の教諭で、更新講習の講師を仰せつかった教員を想定しているようだ。附属学校以外の教諭が講師を任命されることがあるのかどうかはわからない。
では、なぜ免除となる対象を、「受講対象者」ではなく「受講義務者」に限定したのか。意図はよくわからないが、この条件によって免除対象から除外されるのは、
(2) 実習助手、寄宿舎指導員、学校栄養職員、養護職員
(5) 文部科学大臣が指定した専修学校の高等課程の教員
に加えて、「今後教員になる可能性が高い者」として挙げられている
(7) 教員採用内定者(8) 教育委員会や学校法人などが作成した臨時任用(または非常勤)教員リストに登載されている者(9) 過去に教員として勤務した経験のある者(10) 認定こども園で勤務する保育士(11) 認可保育所で勤務する保育士(12) 幼稚園を設置する者が設置する認可外保育施設で勤務している保育士
も排除される。
免許を所持している大学教員の場合、過去に教員として勤務した経験があろうがなかろうが、自分が更新講習の講師を務めたとしても、免許更新の免除対象とはなり得ない。仮に、まだまだこれから中学高校で授業を担当する可能性があると主張しても、それは「受講対象者」とはなっても、「受講義務者」にはならないので、免除の対象にならない。
過去に中学高校で勤務した経験がある大学区要員ならば、(9)の条件によって「受講対象者」とはなり得るので、通常の条件と同じように講習を受講して更新することは可能である。
免除対象となるためには、大学在職中に、非常勤講師などで中学高校で授業を担当すれば「受講義務者」となることができるが、免除の対象となるのが受講期限前の2年間に限られるので、タイミングが難しい。
免許所持大学教員が免許更新しないとどうなるか
最後に、教員免許を持つ大学教員が、免許更新講習を受講しないままでいると免許はどうなるか確認する。文科省のページでは、「更新講習の受講対象者に該当しない場合」として、
更新講習を修了せずに修了確認期限を経過しても免許状は失効せず、免許状を免許管理者に返納する必要はありません。ただし、その後、教員採用内定を得るなど、受講対象者になった場合でも、更新講習を受講・修了しなければ教壇に立つことはできません。
と説明されている。つまり、免許は失効せず、言わば「休眠状態」になるが、仮に中学高校で教壇に立つ場合、そのままでは無免許状態となるので、いったん更新講習を受講して免許を更新してからでなければ教えられない。
この説明では、内定を得た時点で「受講対象者」となるとしているが、その時点で「受講義務者」扱いとなって講習講師として免除の対象となるとは書かれていない。
千葉県教委担当者に確認したところ、採用内定の前年度に更新講習を受講し、免許を更新しておかなければならないので、かなり周到な準備をしなければ現実的には教壇に立つのは難しい。
まとめ
結局、私のケースでは、免許を更新していつでも教壇に立てる状態を維持するためには、
- まともにコツコツと免許更新講習を受ける
- 免許の修了確認期限である来年度中にどこかで非常勤として教壇に立つことによって「受講義務者」の資格を得、それと同時に免許更新講習の講師を務めて免除してもらう
という方法の、いずれかしかない。
周囲の大学教員にはなぜ私がそんなに教員免許にこだわるのか理解できないらしく、さてはまた中学校に戻りたくなったのか?などとからかわれる。私にとっては教師としてのアイデンティティーに関わる問題だし、あれほど苦労して取得した免許を、こんな免許更新制度ごときよって休眠状態にされるというのは、我慢ならないことなのだ。